第19回ヨーロッパ睡眠学会学術集会参加記

 2008年9月8日-13日を会期として、グラスゴー市街よりやや西に位置するクライド川のほとりにあるScottish Exhibition + Conference Centre (SECC)にて第19回ヨーロッパ睡眠学会学術集会(19th Congress of the European Sleep Research Society)が開催されました。SECCはBest UK Conference Centreに選ばれただけあって大ホールのある甲殻類の腹部を思わせる不思議な形の建物とエキシビションホールや小さめの集会場がたくさん入っている一見山小屋風の素朴だが巨大な建物から成っており、その前には駐車場の広大なオープンスペースが広がっていました。市街地か離れていることもあって、学会に出席する人しか行きかう人はなく、駐車場にもほとんど車は止まっておらず、9月とはいえ小雨が降ると気温が下がり、余計に寒々しい光景に見えました。

 しかし、会場内はほかほか暖かく、普通ならヨーロッパ睡眠学会は、半分は観光に費やすつもりでいくのですが、観光に行くには天気が悪く、外にいくのも面倒くさくなって、大半の時間を学会とそこから駐車場をつっきった逆の端にあるホテルとの往復で過ごしました。

 まず、気がついたことは、ヨーロッパの学会も毎回、展示会のブースが派手に大きくなっていき、米国並みとは言いませんが、薬会社、CPAP機器メーカーの存在が目立ってきたことです。特に、opening ceremonyでは、舞台正面のスクリーンには学会場の写真とともにSanofi-Aventisのロゴが写され、学術集会が100%薬屋のひもつきになったのかと思わせる演出に驚かされました。それどころか、学会長の挨拶の後、Sanofi-Aventisの社長(正確な役職は把握できませんでしたが、とにかくexecutiveであることは間違いなく、フランス語なまりの英語を話しておられました)らしき人が登場し、同社が提供するgrant受賞者の発表があり、opening ceremonyでこんなことをしていいのかと唖然としました。ヨーロッパでも睡眠研究者がneutralで公的なgrantで食べていくことが難しくなり、学会の運営そのものもindustryから必死で金を集めなければやっていけない事態になっていると感じざるをえませんでした。

 一方、一般の発表では、ヨーロッパの場合、各国の睡眠の臨床状況はまちまちであるため、APSSのように多数のOSAS患者からdataを取って比較するmass studyは比較的少なく、睡眠呼吸障害の発表自体が全体の半分以下でした。いかにもその国や病院では少数派であろうと思われる人々が、細々ではあるが楽しげにやっている結果と思われるポスターがそこかしこに混じっており、文化差や医療保険の差を反映していて興味深く思われました。ただし、多くの国々はEUの一部であるため、診療や検査について最低のガイドラインを作ろうという動きもあり、communicationは英語で不自由なくできることもあって、アジア諸国に比べるとはるかに楽に交流が進むであろうことをうらやましく感じました。

 また、睡眠薬やRLS治療用のドパミンアゴニストについては、薬会社にサポートされた同じテンプレートの豪華なポスターが目立ち、それらの縮刷版の紙を集めて歩くと、各国で誰が薬会社のadvisory boardに入って仕事をしているかがわかり、そういった人たちが日本の各学会のindustrial supported lectureの講師として次々とやってくるというからくりと合わせて考えると、今後の政治的動きを予測するための格好の資料となりました。

 自分自身がOSHNetやISMSJといったNPO法人や学会を運営していく身となり、どうやって運営費を捻出するのか始終考えていなければなりませんが、私たちの活動は、人々の健康を保ち、病気を予防し治療することに直結していますので、企業から寄付や助成を受ける場合でも、団体や学会の構成員に役立つように努めるだけでなく、最終的にそれがまわりまわって人々の幸福にどうつながっていくか、大きく言えば、世界をどう変えていくかといった広い視点から吟味していくべきでしょう。久しぶりにイギリスという世界を測る物差しを持っている国での学術集会であったせいか、細かに最新の知見を得るよりも少し大それたことを考えさせてもらって、とても有意義に過ごすことができたと思います。次回の学術集会は、2010年9月14−18日の日程でリスボンで開催される予定です。

OSHNet理事長 立花直子 記