「第9回脳と睡眠懇話会」に参加して睡眠に関する教育について考えたこと

 平成20年11月12日に第38回日本臨床神経生理学会学術大会(神戸)のサテライトシンポジウムとして「第9回脳と睡眠懇話会」が開かれました。「脳と睡眠懇話会」はサテライトシンポジウムと位置づけられていますが、懇話会という名前どおり学会発表のようにフォーマルに縛られることなく、発表者と参加者が双方向に自由に意見を交換できる集まりです。今回は日本臨床神経学会の招待で学術大会の特別講演を受けもたれたRonald Szymusiak先生(UCLA)が神山潤先生(東京北社会保険病院)の米国留学時の同僚であったご縁から、米国で睡眠研究を志す若手研究者を対象として1週間の合宿形式で行われる「Lake Arrowhead Workshop」に関する紹介をしていただきました。また、日本との対比をして理解を深めるために、最初に「日本における睡眠に関する教育体制」に関する議論が行われました。

 「日本における睡眠に関する教育体制」では、2人の先生から発表がありました。
 堀有行先生(金沢医科大学 医学教育学・睡眠障害センター)は、医学部における医学教育現場の体験を踏まえ、睡眠に関する医学教育での問題点を指摘されました。医学教育において睡眠関連疾患に関する知識の必要性は認識されるようになり、医師国家試験のガイドラインでも閉塞型睡眠時無呼吸症候群だけでなく、不眠症、過眠症、睡眠覚醒リズム障害、夢中遊行症、レストレスレッグズ症候群、周期性四肢運動異常症が取り上げられているようです。しかしながら、医師国家試験の試験問題は臨床の立場からは回答不能であり、不適切な問題が多いのに驚ろかされました。こうした不適切な問題が出題される背景には、出題者を含め私たちの時代の医学教育が、大学の医局単位ごとのトレーニングで行われてきたことがあるのでしょう。医局による教育には良い側面もあったと思いますが、その内容に偏りがあることが多く、誤りがあった場合には、その誤りがそのまま引き継がれてしまうのは大きな弊害です。堀先生は複数の医療機関が連携して教育・研修プログラムが作られることを提言されましたが、確かに必要と思いました。

 また、立花直子先生(関西電力病院 神経内科・睡眠関連疾患センター)からは、京都大学、NPO法人Osaka Sleep Health Network (OSHNet) の睡眠塾や関西電力病院など様々な現場での実践を踏まえた睡眠医学に関する教育の問題点とあり方が示されました。立花先生は米国で系統的な睡眠医学の教育も経験され、RPSGTだけでなく米国の国際睡眠専門医の資格を取得し、いつも日本語だけではなく英語としても考えられ、共通語と成立する普遍的な睡眠医学を考えられています。しかし、今回、教育は言葉で説明するのは困難で、hands onでないと伝えにくいものもあることを強調されました。立花先生らしく正確を期するために、前夜、出典となる本を大捜索され確認されたようですが、神戸大学精神科前教授の中井久夫先生が「鉛筆削り」を教える方法を通して医学における教育について述べているエッセイを紹介されました。つまり、ナイフや鉛筆も見たことのない人に「鉛筆削り」を記述したマニュアルを作成し教育することは不可能ではないものの、それには大量の情報とともに大変な時間がかかってしまうはずです。それよりも実際にナイフと鉛筆を手に取り、直に相手に伝える方が、遥かに労力は少なくてすみ、わずかな時間で伝えることができるというわけです。hands onでの教育には教育する側の力量が問われます。正確な技法を伝承するためには、どうすれば良いのか改めて考えさせられました。

 一方、米国では随分前からhands onで若手に対する教育への熱意のある取り組みが、一線の睡眠研究者や医師により行われていることをDr Szymusiakによる「Lake Arrowhead Workshop」の紹介で知りました。1週間にわたって合宿し、少人数のグループにメンター役の指導者が配属され、グループがいっしょになって楽しく食事を取り、スポーツをする機会ももちながら、睡眠に関する様々な知識を得、かつ研究計画の作り方や、論文の読み方や書き方、プレゼンのしかたなども学ぶことができるというものです。こういったworkshopに参加すると、きっと睡眠研究や睡眠医学が好きになるでしょう。昨年、1泊2日でしたがOSHNetで行われたCPAP titrationを議論した合宿は実に充実感がありました。こうした自分自身の経験やDr Szymusiakのスライドとを合わせると、「Lake Arrowhead Workshop」が素敵なworkshopであることは十分分かりました。それに加えて、かつてこのworkshopに参加したご経験のある座長の神山先生が、そのときの感動を嬉しそうに話す姿からも、こういった教育の重要性をさらに強く納得させられました。

 別の視点からの感想ですが、多くの学術集会の会場ではいつの頃からか「廊下トンビ」や「ロビーのカラス」が目につくようになりました。「廊下トンビ」や「ロビーのカラス」の生息していない「脳と睡眠懇話会」や「Sleep Symposium in Kansai (SSK)」に参加すると、いつも会場の参加者の熱気にあてられ脳が忙しくなります。ぜひ、まだ未参加の方はこの「脳と睡眠懇話会」やSSKが発展したIntegrated Sleep Medicine Society Japan (ISMSJ) の学術集会に参加して、同じ体験をしてみられることをお薦めします。

大阪回生病院 睡眠医療センター 谷口充孝 記