第8回 大阪睡眠を考える会に参加して

 さる内科の先生によると、循環器の病院で脳梗塞後遺症の患者は負け組なんだそうな。長期化してなかなかよくならない、目立った治療法がない、もうひとつ付け加えるとすれば、手間がかかる割にもうからない、ということか。睡眠クリニックでは慢性不眠症が負け組なんだろうね。内科や心療内科で何年も何10年も睡眠薬をとっかえひっかえしたあげくにさじを投げられて睡眠クリニックに流れ着く患者さんが大勢いらっしゃる。それにもかかわらず、慢性不眠症、特にうつ病が改善したあとも長期に不眠に悩む患者さんの研究がわが国では極めて少なく、ガイドラインすら存在しないのが実情である。こういう陰の部分に光をあててみようという「大阪睡眠を考える会」の試みにはいつも好感がもてる。三島和夫先生のお話は、慢性不眠症に悩む患者さん、開業医に未来への展望、希望を与えてくれた。

 うつ病と不眠症とが高率に合併するというのは誰でも知っていることで、鶏が卵を産むということに等しい。ところが卵が先か、鶏が先か、という話になるとちょっと面白くなってくる。欧米のレビューなんかによると、この2つの疾患は互いに共通する機序があるという。だから、うつ病も不眠症もどちらも平行してちゃんと治療してあげないといけないよ。ここまでは常識だが、三島先生の不眠に対する疫学的分析がなかなか面白い。まず若年者の不眠は精神疾患、高齢者の不眠は身体疾患に関連することが多い。また、睡眠薬の処方はほとんどが2ヶ月以内の短期処方である一方、うつに伴い遷延する不眠症では、うつの病相期だけではなく、寛解期にもどんどん睡眠薬の量が増えていく傾向にあるという。睡眠薬服用者の15人に1人は後に抗うつ薬を服用するようになるという。ということは、若年者と高齢者、急性期と慢性期、それぞれに不眠症の戦略というのを別個に考えていかねばならないということか。

 そもそも、不眠症の治療イコール睡眠薬という図式ができあがってしまっているのが間違いの元かもしれない。睡眠保健指導もなされず睡眠薬に対する正しい情報も与えられず、不安にかられて不眠をどんどん悪化させている患者さんがいかに多いことだろう。この春から健康保険点数(30分以上で420点)が認められた認知行動療法は精神科医のあいだではちょっとした話題となっているが、慢性不眠症に対する認知行動療法は、欧米ではかなりの成果をあげてきているようだ。とは言え、欧米での担当者は医師ではなく、国民皆保険が成立していない米国では、医師に担当させると医療費が高くなるので睡眠医学に精通した臨床心理士が受け持ち、医療すべてを税金でまかなう英国では、看護師を訓練してグループを指導する方法が試みられているという。いずれにせよ、慢性不眠症を受け持つだけの十分なマンパワーがないことは、どこの国も似たりよったりということか?

 特に慢性不眠症の人たちは認知のゆがみ(睡眠ポリグラフやアクチグラフでは充分睡眠がとれているにもかかわらず、全く眠れてない、と主張する人たち)が特徴なので、認知をかえていくというのは理にかなった治療法といえる。断眠、時間療法、光治療を組み合わせたうつの治療法というのも、まだ結果はでていないものの興味深い。
 というわけで、こてこての慢性不眠症の患者さんにスリープログを書いてもらい「認知行動療法もどき」を早速始めた私である。さあ、これからは思いっきり睡眠クリニックらしさを出してやるぞ。ただ、すべての慢性不眠症の患者さんにがっちり認知行動療法をやり始めたら、きっと赤字でクリニックはつぶれちゃうだろうけれど・・・

追伸:立花先生から学会記の執筆を頼まれて、「どんな風に書こうかな」っと過去の学会記Archivesを開いたところ、当クリニックの中内緑が書いた熊本SSKの学会記が目に入りました。ぎょぎょっ!誤解を解きたいのでこの場を借りて追伸いたします!!京谷クリニックは熊本SSK終了後にソニーのハンディカムを購入いたしました!!!

京谷クリニック 京谷京子 記

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