第3回Sleep Symposium in Kansai−Kanazawaレポート
 2007年9月22日、彼岸の入りを過ぎても未だ夏の陽気の金沢で、第3回SSKが開催されました。SSKの由来はSleep Symposium in Kansaiですが、今回は最後のKを『Kanazawa』と読みかえ、これまで活動の拠点としてきた関西を飛び出してのシンポジウムでした。睡眠診療に関わり、普段直接に交流を持つ機会のなかった多くの方を含む118名の参加者とともに、知識を深め意見を交わす、刺激と実りの多い会となりました。朝から夕までの内容の濃い忙しいプログラムでしたが、あっという間に時間が流れたなというのが私の感想です。会場の賑わいは、SSKに対する期待の高さと睡眠に関わる方々の意欲に溢れ、全体を通し、参加者の多くの期待を裏切らないものであったと思います。

 第3回SSKでは日本の睡眠診療の進むべき方向の具体策を考えるにあたり、主に2つのテ―マ@医学教育・睡眠医学教育 A睡眠診療の実際 について、講演と討論がされました。
 医学教育に関するシンポジウムでは、現在の医学教育の試みとそれに伴う問題点が、安田幸雄教授(金沢医科大学 医学教育学)より実例を通して語られ、大学教育そのものが改革を重ねて最善の道を模索していることを知りました。現在大学における医学教育の傾向は、多面的に学生を評価・教育するものとなっており、我々が数年前に受けたものと比較しても大きく様変わりしています。理由として、社会が医療に持つ期待を反映していることはもちろんのこと、爆発的に増加する知識に追いついていくのは容易ではないことからも、能率的かつ変化や情報に追いつくための知的体力を鍛える教育が求められているからと理解しました。睡眠医学にしても同様で、近年新たな知見が相次いで出され、多方面の領域にまたがる形での広がりが一般医にも明らかになってきました。その上で一般の臨床医は睡眠に関連した診療の場面で、どこまでであれば自分で対処してよいかが非常に難しい問題です。専門施設へ紹介するタイミングも一般医個人の判断で異なっているのが現状ですから@一般診療医の治療可能な病態・疾患A適切な専門医のいる医療機関への紹介 B専門診療を受けたあとのフォローアップに関して、現場で役に立つ具体的な指針が必要です。解決には診療科間での知識の共有や協力し合っての症例の検討を重ねていくべきでしょう。診療に際して方向性の統一や一定の基準が必要との意見が出されましたが、その具体化については今後も機会を設けて討論を重ねていく必要がありそうでした。
 また堀 有行先生(金沢医科大学 医学教育学)は、一般医となる一段階前の医学部での『教育』という点から睡眠医学をみた場合、驚くべきことに睡眠関連疾患に関する記載が日本の教科書では非常に少なく、睡眠医学が浸透しづらい原因の一端となっている可能性を指摘しました。@−Bが行えるように睡眠習慣に関する問診や睡眠へ影響を与える嗜好品についての基礎知識の教育が必要との意見も聞かれました。
ふだんはコンサートなどが行われる金沢アートホテルが会場でした
 午後は、睡眠診療の実際についての講演となりました。
 はじめに谷口充孝先生(大阪回生病院 睡眠医療センター)から、SAS患者の患者層の変遷や、多彩な臨床症状を的確に判断する診療センスとその教育の必要性、またうつ病診断のマニュアル化の弊害について現場の視点からお話いだきました。次に同センターの技師である村木久恵技師からは職務内容の紹介、技術や知識の継承の方法、専門施設であるが故の悩みなど、専門施設であっても制限が多くあることを教えてくださいました。このように日本の睡眠診療センターがうまくたちいかない理由を探す目で、その後の八木朝子技師(太田睡眠科学センター)や宮本雅之先生(独協医科大学 内科学)の米国の睡眠センター及び技師の仕事の話を聴くと、日本と米国の診療の流れや保険制度などの違いが浮き彫りになります。徳永 豊先生(徳永クリニック院長)はCPAPを処方をしたらほぼ診療は終了したような現行の外来の流れに異を唱え、使用状況に応じて対応して離脱も可能にするようなシステム作りについて述べられました。いずれ米国のセンターをそのままの形で輸入し再現するのは現実的には不可能で、日本独自の睡眠専門診療施設の形態を考える必要を感じました。現在、回生病院のような特殊な施設を除いては、睡眠に携わる臨床検査技師の多くは神経生理部門担当者が職務の一部として検査を行っています。そのため多くの時間と労力、場所を要するPSGやMSLT等を一般業務の中で数多く行うのが難しいのが現実です。日本の睡眠医療は、ソフトの面でもハードの面でも流れが悪く煩雑になりがちで、とくに一般病院では、関わる部門の負担が増大するだけという状況に陥りやすくなっています。米国の現状を参考にして、かつ組織が円滑に回るような日本の制度にあった施設の設立標準化が、我々の大きな課題として立ちはだかっているようです。
 ポスターセッションでは小児科、呼吸器科、神経内科、耳鼻咽喉科等様々な分野の医師や検査技師等から、テーマも小児科疾患やOSASに関するものから労働衛生までに及び非常に広範囲で聞きごたえがありました。多くのデータを集めた解析結果も、臨床で感じる問題点のヒントを含む症例報告も、それぞれが興味深く閲覧時間を短く思うほどでした。そして特筆すべきは、前回のSSKで発表された症例の1年後について追加報告が掲示されていた点です。前回の発表での疑問や意見をもとに、解決・観察・検証を行って報告する地道な姿勢が、サイエンスとして睡眠医療が確立していく過程に欠かせないのだと感じました。この会の特別講演のために来日されたChristian Guilleminault教授(Stanford University Sleep Medicine Program)もポスターセッションへ参加され、私も含め多くの先生方に、意見・指導をくださいました。
ポスター発表の様子
 Guilleminault 先生のご講演は、The Future of Sleep Medicineと題して、睡眠医学が歴史的には基礎医学の多くの研究からスタートしたが、いまや脳機能のみならず、広く人間の生理や病理のかかわるものとして全ての医師がその視点を持つ必要があることを多くの具体例をあげて検証したものでした。人の生命活動にとって普遍的な要素である『睡眠』の難しさと可能性を、改めて感じる講演だったというのが私個人の感想です。
Guilleminault教授によるThe Future of Sleep Medicineの結論
 SSKは、催される会に聴講に来るという参加の仕方ではなく、各人が疑問を投げ意見を述べ合うことで、学び、疑問を持って、次につなげていくための場です。来年『K』はKumamotoで時期は8月の予定です。今回来られなかった方も、どうぞご参加ください。

京都大学医学研究科附属高次脳機能総合研究センター 杉山華子 記

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