第44回日本臨床神経生理学会・技術講習会参加記
 数日前まで、この時期にしては比較的暖かな過ごしやすい気候だったのに、回生病院睡眠医療センターで1,2位を争う寒がりがそれぞれ臨床神経生理学会技術講習会、同学術大会に出席するという日が近づいた途端に誰かが北風小僧のマントの裾を引っ張って呼び寄せたかのように気温がぐっと下がりました。そんな講習会の前日の夜、関西から宇都宮に乗り込みました。東京から東北新幹線(2階建て!) に乗り約40分、宇都宮駅に降り立った途端に感じたものは肌に触れる感じが少し痛い気がする冷たい風と、餃子を焼いていると思われる香ばしい匂いでした。翌日からの寒さ対策に考えを巡らせながらホテルに向かいました。


 翌日、しっかり着込んでホテルから会場まで徒歩で向かっていると、それほど寒さを感じることは無かったのですが、時折吹く風が顔に当たる感触にはやはり冷たく鋭いものがあり、会場の周りのイチョウも関西よりも一足早く綺麗に黄色く染まっていました。建物の中に入り風が遮られるとやはりホットしたとともに、かなり余裕をもって会場に到着したつもりだったのに、既に人であふれている受付の様子に一瞬動きが止まりました。

 受付の様子だけでもかなりの参加者がいそうだなと思いながら、実際会場に入ると、会場の規模はかなりのものであり、もともと設置されている座席に加えあいているスペースに椅子が並べられていたにもかかわらず、それがほぼ全て埋まる勢いで受講生が参加しており、ざっと見積もって400人くらいかなと思っていたところ、講習が始まる前の挨拶で410人ほどの申し込みがあったとの話がありました。
 
 二日間に渡って行われた講習は内容、時間進行、体力全てにおいてハードなものでした。

 全体的な流れは、最初に脳波と誘発電位に関する基礎知識と正常所見、異常所見の講義が行われ、そこでそれぞれの検査の判読のポイントやその検査を行うことによりどういった事がわかるのかが簡潔に説明されました。一つのセッションはだいたい20分前後で行われたのですが、講義される先生方には与えられたタイトルに対して持ち時間が短かったようで、内容としてはかなり端折ったものになるという前置きをされる講師の方が何人かいらっしゃいました。ただ、私個人としてはポイントだけを押さえることができ、特に国試の試験勉強以外で関わったことのない、誘発電位の事などはその後の講義を聞くための導入としてはとてもわかりやすかったと思っています。それでも今回受講生のうち私のような経歴の人間はまれだと思われるので、その他の受講生の方々と若干見解の違いはあるかもしれません。
 その後1日目は主に脳波に関する講義、2日目は神経伝導検査、筋電図検査に関する講義が行われるプログラム構成で、合間にその他の検査に関する講義や、現在検査の現場に出てられる医師や技師の方々がそれぞれの施設でご自身がどのように検査に関わられているか等の講義がありました。
 これらの中で現在私自身がPSGで多少なりとも関わっている脳波に関する講義は脳波判読の難しさを改めて実感するものでした。Irregularな波形が出現したとして、それが異常を示すものなのか、正常所見として扱われるものなのかを患者さんの基礎疾患に応じて考慮し、また賦活がおこなわれている時の脳波の変化はいったい脳でどういったことが起こっているときに見られるものなのかを考えて判断するようにとのコメントには、自分がいままでどこまで理解し、考えていたかを思うと悲しいものがあり、できることならもう一度脳波を基礎から勉強する機会を持ちたいと思いました。また更に画像検査との組み合わせにより得られる情報が増えるため、最近は脳波と機能的MRIを同時に検査が出来る機器も開発されているという話がありました。現在MRI検査を検査技師が行っている施設は数があまりないとは思うのですが(違ったらごめんなさい)、検査に関わらなくてもせめて画像が読めるようになると、同時記録のものではなくても、波形の読み方も変わり症例に対しても様々な方向から興味が持てる可能性が広がるのではと思いました。

 2日間それぞれに行われた「ライブデモ」では、まず1日目、壇上に脳波計を持ってきて現役で検査に携わっている方(検査技師)が講師をされ、10-20電極装着法の説明をしながら、被験者役の人の頭に実際に電極をつけていく様子を見ることができました。いままで他施設の方がPSGの電極装着をする様子を見る機会はあったのですが、きっちりとメジャーで頭囲を測定し、電極装着を行うという様子を見学するのは今回が初めてでした。このようなことは今後まずないだろうと思いながらその手技に見入ってしまいました。頭囲を測定するという作業は、普段やりなれていない私にとっては困難を極めるものであり患者さんを椅子に座らせている時間がどんどん長くなっていくのですが、今回少し装着のコツのようなものがわかったような気がしました。このような機会が得られたことは貴重な体験でした。
 また2日目は神経伝導検査、筋電図、磁気刺激のデモが行われました。これらも実際に現場で検査を行っておられる医師の方々が講師となられ、被験者役の人に実際に電極をつけたり、刺激を与えたりし、手技を行う際の留意点、対処方法等を聞きながらこれまでの講義で提示された波形が実際に得られる様子を見ることができ、これらの分野に経験のない私でも興味を持って見る事ができました。更にこの日は正常波形の提示だけではなく、実際に慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの患者さんが壇上に上がられ、その方が歩いて検査ベッドまで行く様子の観察から始まり、神経伝導検査で正常者と比べどのような違いが見られるかのデモまで行われました。このような事ができるかどうかは何をおいても患者さんと、主治医(講師の先生)との信頼関係があってこそ出来るものだろうし、いろんな意味ですごいなぁと思った時間でした。ただ、この検査手技のデモのあと時間にすれば大した長さではなかったのですが、しばらくスライドでの説明があり、その間患者さんがデモ用のベッドに無防備に寝かされたままになってしまいました。ライトに照らされた壇上のベッドで医療従事者とはいえ不特定多数の人の視線にさらされ、脱力があり自分自身で起き上がることも困難な方を狭いベッドの上に何の指示もないまま半ばほったらかしのような状態になってしまった事が少し気になりました。おそらく講義をされていた先生は時間の制約もあり、講義の進行のことでいっぱいだったのではと思います。その中でせっかく主治医の先生を信頼して協力してくださったのであろう患者さんに対して周りの人たちがもう少し配慮をしてあげても良かったのではという気持ちが残ったのが残念でした。
 


 今回私が講習に参加し、さらに学術集会に参加したスタッフとも話しをして以前から何となく思っていた事でその思いが強くなった事は、臨床神経生理に関わり今回のような講習で講師として登場されたり、学会で発表されたりする人々というのはどの方も(医師、技師に関わらず)それぞれが関わられていることに対しての強いこだわりがあり、悪い意味ではなく非常にマニアックな印象を抱かせる人たちだということです。更にはそういった自身の状態を理解された上で楽しんでられる印象も受けました。そしてこのマニアな感じは睡眠に関わる人にも言えるのかもしれません。マニアになることを楽しむ事こそが生体信号を徹底的に読み取るのに重要な要素なのかと思いました。
 全体を通じて思った事は、やはり現場で実際に患者さんに携わり、検査を行っていられる方の話というのは、ご自身の最近の体験を踏まえたりしながら講義が行われるため聴いていて臨場感がありとても面白いものでした。もちろん、基礎的な知識があった上での現場での話しだったとは思いますが、教科書では得られない貴重なものだと思いました。

 2日間の講習は長めの昼休憩を除き午前、午後とも数分の休憩も無い中で行われました。講習の内容の濃さを考えると仕方がないのかもしれませんが、特に午後は時間が長いためトイレに行きたくなったりしたときは講義が途切れたところで行ったとしてもその次の講義には間に合わない状態になり、さらに会場がホールであったため真ん中の席に座ってしまった場合は通路に出るまでの人をまたいで行かなければならず、行きと帰りの2回に渡り周りの人たちに迷惑をかけることとなってしまいました。座席も机が無いためメモを取るのに常に前のめりの姿勢になり、後半になると座っているのが少し辛くなってしまいました。この辺りの感じ方には個人差があるとは思いますが、集中力を維持するためにも少し休憩があっても良かったのではという印象がありました。
 今回出席されている受講生の人たちの様子を見ていると皆さんとても熱心な印象をうけました。(その状態を眺めている私の気の散り様には目をつむってください)臨床神経生理は医師と技師が同じフィールドに立って話が出来る数少ない分野だと思います。こういった講習会でもっと医師と技師がそれぞれの立場から討論できるような場面が見られればまた楽しいのにと思いました。

 2泊3日宇都宮滞在はあっという間に終わり、かろうじて餃子を口にして帰ってきました。餃子以外では会場から駅までの道沿いにあったお店で購入し、自宅に持って帰った「野菜のたまり漬け」という漬物がことのほか好評でした。が、これが栃木というか宇都宮の名物なのかどうか分からないまま食べ尽くしてしまいました。どなたかご存知ですか?
大阪回生病院 睡眠医療センター 村木 久恵


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